遺言の撤回について
遺言書を作成したとしても、遺言者は自由に遺言を撤回したり、内容を変更したりすることが出来ます。遺言の撤回を行うことにより、将来的にその遺言の効果は失われます。
そもそも遺言の撤回には、遺言内容の一部の効力を失わせる一部撤回と、遺言内容の全部を失わせる全部撤回があります。
なお、自筆証書遺言・秘密証書遺言を作成する際に書き間違えたりして、遺言書の修正を行うと、一部撤回したとみなされます。
遺言の一部撤回
遺言者が遺言内容の一部を撤回(変更)したいと考えることもあるでしょう。その場合、新たに遺言書を作成することにより、遺言内容を変更することが出来ます。
遺言書が複数あるとき、前の遺言書と抵触する部分は、後から作成された遺言書が有効であると判断されます。
例えば、令和3年12月31日付で「第1条 〇〇銀行の普通預金をAに相続させる。第2条 自動車をBに相続させる。」と記載している遺言書があったとします。その後、令和4年12月31日付で「自動車をAに相続させる。」と記載している遺言書を作成すれば、預貯金も自動車もAさんが相続することになります。しかし、「自動車をAに相続させる。」旨の遺言書だけが発見される可能性もありますし、相続人も戸惑う可能性もありますので、以下のようにもう少し丁寧かつ具体的に記載するほうが良いでしょう。
「遺言者は、令和3年12月31日付の自筆証書遺言書の一部を以下のように変更する。第2条の「自動車をBに相続させる。」を「自動車をAに相続させる。」に改める。」
また、遺産を処分することにより、実質的な一部撤回も可能です。上記の例では、自動車を売却することにより、Bさんが相続することはなくなります。当然ながら、Aさんも自動車を相続することは出来なくなります。ちなみに、自動車の売却代金を〇〇銀行に預けておけば、Aさんが自動車売却代金を相続することが出来ます。
ただ、一部撤回を行いたいときには、手間がかかりますが最初から遺言書を書くようにするほうが良いです。前の遺言や後の遺言の紛失のリスクや、後の遺言の隠匿のリスクがありますので、出来れば残す遺言書は1通とし、封筒に封緘しておくべきであると考えられます。
遺言の全部撤回
遺言者が遺言内容の全てを撤回したい場合は、①新たな遺言書を作成する、②遺言書を破棄する、といった方法があります。
①新たな遺言書を作成する際には、「遺言者は、令和〇年〇月〇日付の自筆証書遺言(公正証書遺言)の全部を撤回する。」と記載しておいたほうが無難です。
②自宅で保管している自筆証書遺言と秘密証書遺言でしたら、遺言書を破棄することにより実質的に遺言書を遺していないことと同じになりますので、遺言の全部撤回が可能です。ただ、注意しなければならないのは、自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、保管の申請の撤回を申し出たうえで、返却された遺言書原本の破棄をする必要があります。また、公正証書遺言の場合は、公正証書遺言の破棄が出来ませんので(原本は手元にあるでしょうが、公証役場にも有効な公正証書遺言が残されています)、この公正証書遺言を撤回する旨の申述をするか、新たに全部撤回する旨の遺言書を作成する必要があります。
以上のように、遺言書を作成しても、後に一部撤回や全部撤回をすることが出来ますので、前向きに遺言書を作成しておくことを検討しても良いのではないかと思います。
遺言書を作成するきっかけについても是非ご一読頂ければと思います。