遺言の撤回について
遺言書を作成したはいいものの、後日、「やっぱり遺言内容をちょっとだけ変えたいな」と思うことはあるでしょう。
遺言者は自由に遺言を撤回したり、内容を変更したりすることが出来ます。遺言の撤回を行うことにより、将来的にその遺言の効果は失われます。
そもそも遺言の撤回には、遺言内容の一部の効力を失わせる一部撤回と、遺言内容の全部を失わせる全部撤回があります。
なお、遺言書を作成途中に書き間違えたので修正したいという場合は、「遺言書の修正方法」をご参照ください。
遺言の一部撤回
①遺言内容の一部だけを作成する方法
遺言書は後から作成されたものが有効になります。また、後から作成した遺言書の遺言内容が、以前に作成した遺言書の遺言内容が抵触している場合も、後から作成した遺言内容が有効になります。
例えば、以下の内容の遺言書があったとします。
『第1条 〇〇銀行の預貯金全額をAに相続させる。
第2条 〇〇証券に預託している株式全てをBに相続させる。
令和4年1月10日 〇〇〇〇』
そこで、やはり〇〇銀行の預貯金はBに相続させたいと考えたときに、遺言書の一部だけを修正する場合は、
『遺言者は、令和4年1月10日付の〇〇証書遺言の一部を、以下のように変更する。
「第1条 〇〇銀行の預貯金全額をAに相続させる。」を
「第1条 〇〇銀行の預貯金全額をBに相続させる。」に改める。
令和6年1月10日 〇〇〇〇』
と新たに記載することにより、変更内容が明確に分かりますし、相続人に令和4年1月10日付の遺言書があることも認識させることが出来ます。
遺言書の一部だけを書き直す方法を採った場合、自分の死後に、相続人が前の遺言書だけを、もしくは後の遺言書だけを見つけることがあります。
前の遺言書だけを見つけて遺言執行した場合、遺言者が思った通りの遺言内容とは異なることになりますので、手間はかかりますが、遺言書を全て撤回して再作成するほうが良いでしょう。
②遺産を処分する方法
遺言書に記載された財産を消費したり処分したりすると、その財産に関する遺言内容は撤回したものとみなされます。
例えば、以下の内容の遺言書があったとします。
『第1条 〇〇銀行の預貯金全額をAに相続させる。
第2条 〇〇証券に預託している株式全てをBに相続させる。
令和4年1月10日 〇〇〇〇』
しかし遺言書を作成後に、〇〇証券に預託している株式の評価額が暴騰し、全て売却したとします。相続財産に株式がなくなったため、第2条の遺言内容は撤回したとみなされます(第1条はそのまま有効です)。
上記の記載方法では、株式売却代金は誰が相続するか分かりません。〇〇銀行に預け入れしているかもしれませんし、〇〇証券の預り金で保管されているかもしれません。
ですので、実務上では、「〇〇証券に預託している株式、公社債、投資信託、預け金、その他預託財産の全て及びこれに関する未収配当金その他の一切の権利をBに相続させる」と記載するか、「第1条乃至第2条以外を除く遺言者所有の全ての財産をBに相続させる」などのように記載することになります。
遺言の全部撤回
①遺言書を全て書き直す方法
遺言書が複数あるときは、一番直近に作成された遺言書が効力を持ちます。遺言書の種類(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)で決まるわけではありません。
よって、令和4年1月10日付の公正証書遺言と令和6年1月10日付の自筆証書遺言がある場合は、後者の遺言書が有効となります(ただし、自筆証書遺言や秘密証書遺言が不備なく作成されていることが前提です)。
しかし、遺言書が複数枚あるとき、相続人は戸惑うことが予想されます。ですので、新たに作成する遺言書には、『遺言者は、〇年〇月〇日付の〇〇証書遺言の全部を撤回する』と記載するか、前に作成した遺言書を破棄すると良いでしょう。
②遺言書を破棄する方法
遺言書を作成したものの、やっぱり相続人同士で話し合って遺産分割してもらいたい、と思うこともあります。
その場合は、作成した遺言書を破棄する方法もあります。
自筆証書遺言を作成している場合は、自筆証書遺言書保管制度を利用していなければ、その遺言書を破棄すれば問題ありません。自筆証書遺言書保管制度を利用していれば、保管の申請を撤回したうえで、その遺言書を破棄することになります。
秘密証書遺言を作成している場合は、そのまま遺言書を破棄することで問題ありません。
公正証書遺言書を作成している場合は、公証役場で、作成した公正証書遺言を撤回する旨の申述をするか、遺言書を撤回する旨の遺言書を新たに作成することになります。
遺言書の破棄方法について、シュレッダーにかけるのが一番良いのですが、多くの方は自宅にシュレッダーはないでしょう。
その場合は、はさみで切り刻んでから破棄することをオススメします。
もし、遺言書そのままゴミ箱に捨ててしまうと、他の人がゴミ箱から遺言書を取り出して保管してしまう可能性もありますので、破棄方法にも注意が必要です。
まとめ
・遺言書を作成しても、修正や撤回が可能です。
・遺言書に記載した財産を処分すると、その遺言内容の部分は撤回したものとみなされます。
・遺言書を破棄する方法にも注意が必要です。