紛争につながる遺言とは?
遺言書を作成しようと思っている方は、おそらく自分の死後に相続人が争わないようにしたいと考えているでしょう。
しかし、遺言内容によっては相続人の紛争(相続争い)が起きる場合もあります。例えば、以下のような例が挙げられます。
①民法に定められた遺言書の要件を満たしていない場合
②遺言内容が偏っており、理由が不明確である場合
③遺言者が遺言時の感情に流されて遺言書を作成したと思われる場合
①民法に定められた遺言書の要件を満たしていない場合
遺言書の要件は民法に定められています。公正証書遺言ならば公証人が作成するので不備はないかと思いますが、自筆証書遺言でしたら、全文・日付・名前を自署しなければならないだとか、押印しなければならないだとか、修正方法も厳しく決められています。詳しくは「自筆証書遺言」をご参照ください。
要件を満たしていなければ、その遺言書が無効となる可能性もありますし、軽微なミスであれば、遺言者の真意を探求して、遺言書全体を無効にすべきでないという判例もあります。遺言書が有効か無効かはケースバイケース、最終的には裁判所での判断になるかと思いますが、要件を満たした遺言書を作成するに越したことはありません。
さて、有効か無効かはっきりしない遺言書が出てきた場合、相続人の間で揉めることがあります。片方は有効であることを主張し、もう片方は無効であることを主張します。しかし時間や費用を使ってまで裁判所での審判を受けるつもりはない、こういったことは十分に起こり得ます。こうなったら、裁判所で白黒はっきりさせるか、遺産分割協議でお互いが納得できる分け方をするかの2択でしょうが、そもそも遺言書をきっちり残していれば、こういったトラブルは防ぐことができるでしょう。
法律上で定められた様式で、誰がどう考えても、答えは一つしかでないような明確で分かりやすい遺言書の書き方をしましょう。
②遺言内容が偏っており、理由が不明確である場合
例えば、相続財産が田舎の広大な山林と普通預金1,000万円のみだったとします。「山林を切り開いてメガソーラー発電所を作るんだ!」という方でもない限り、大多数の人は普通預金を相続したいと思うでしょう。
上記のケースで相続人が長男と次男のみとします。長男は遺言者の世話を献身的にこなしており、対する次男は疎遠であるとして、遺言内容が「長男に山林を、次男に普通預金を相続させる」となっていたらどうでしょうか?
もし長男が不動産業者や太陽光事業者で潤沢な資金を有しており、遺言者の生前に「山林を相続したい」と言っていたならば、トラブルなく相続できるでしょう。しかし、長男・次男ともに同じような普通の会社員で、平均程度の預貯金、家族構成でしたら、長男からすると納得がいかない部分も出てくるのではないでしょうか?
このように、遺言内容が偏っており、遺言内容の理由が不明確である場合は相続人の間でトラブルが起きることがあり得ます。長男としては、「遺言は遺言で理解はできるけれど、遺言内容に偏りがあるから次男と遺産分割協議をして相続財産を決めたい」と主張するかもしれませんし、次男は「遺言書は遺言者の意志が込められているから、遺言内容を尊重し、普通預金は自分が相続する」と主張するでしょう。
このような紛争を防ぐ為には、相続人の背景を考えつつ、出来るだけ平等になるような遺言内容にすることを心がける必要があります。また、相続人が困るような相続財産(今回の場合は山林)は、生前に処分することも一つの手であると思います。
③遺言者が遺言時の感情に流されて遺言書を作成したと思われる場合
相続人が遺言者に「相続トラブルにあいたくないので、遺言書を書いてほしい」と頼むことはよくあります。遺言書はあくまで、遺言者のみの意志で作成する必要がありますが、相続人の勧めで遺言書作成に踏み切ることも少なくありません。
では、例えば相続人がテレビや新聞の特集などを見て「相続トラブルは恐ろしい」と思い、実家にいる親である遺言者に「遺言書を書いてよ」と電話で伝え、遺言者が遺言書を作成した場合は、余程でない限り問題なく遺言者の意志が反映した遺言書が出来るでしょう。
次に極端な例ですが、相続人が遺言者を超高級レストランに招待し、お酒をたくさん飲ませて遺言者の気分が非常に良くなっているときに「遺言書を書いてよ」とお願いし、その場で自筆証書遺言を書いた場合はどうでしょうか?(紙・ペン・印鑑は持っていたとします)
この場合は、遺言者も気分よく遺言書を書いてくれるかもしれませんし、遺言内容も「せっかく超高級レストランに連れてきてもらったのだから、この相続人にはちょっと多めに相続させようかな」と思うかもしれません。
このように、一時的な感情に流されて遺言書を作成したと思われる場合は、他の相続人から非難を浴びる可能性があります。この場合は遺言者にも落ち度があるような気がしないでもないですが、遺言書を書くときは落ち着いて、相続人1人1人のことを考えながら遺産配分を決めていくべきです。
④内容が不明確な場合・矛盾している場合
遺言者が遺言書を作成しており、相続人が遺言書を見たとき、「遺言内容に矛盾があるんだけど・・・」ということもたまにあります。
例えば、「全ての財産を長男Aに相続させる」「〇〇銀行の預金は次男Bに相続させる」「〇〇市の不動産は三男Cに相続させる」と記載していた場合、長男Aは〇〇銀行の預金や〇〇市の不動産を相続することが出来るのでしょうか?
「②遺言内容が偏っており、理由が不明確である場合」でも述べた通り、誰が考えても答えが一つになる遺言内容にするべきですので、遺言書を書く場合は何回も推敲しなければなりません。
これらが主に紛争につながる遺言書になります。
裏を返せば、これらを避ければ相続人が納得できる遺言書にすることができます。しかし、1人で考えてもなかなか考えがまとまらないでしょう。その場合は、第三者である専門家に相談することもご検討ください。
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